偉人の母
かなり昔のことですが「偉人の母」という本を読んだことがあります。
歴史上の偉人は、そのほとんどが母が素晴らしい人だったという内容でした。
盲目のピアニストとして、もはや世界的に有名となった「辻井伸行」さんも例外ではありません。
やはりその母である「辻井いつ子」さんが素晴らしい人だったのです。
いつ子さんが、伸行さんの音楽の才能に気付いたのは、生後8ヶ月のことだったそうです。
伸行さんはショパンの「英雄ポロネーズ」がお気に入りで、毎日CDを聞いては手足をばたつかせて大喜びをしていたとか。
ある日、CDが傷ついたので買い換えると、途端に伸行さんの機嫌が悪くなってしまったそうです。
そのとき、「同じショパンの英雄ポロネーズをかけているのに、どうしていつものように上機嫌にならないのだろう。もしかして演奏家が違うからではないか」と、ひらめいたのだそうです。
なんと、伸行さんは演奏家の違いを聞き分けていたのです。
それを見抜いた母だったわけです。
でもすぐにピアニストにするつもりはなかったというのです。
いろいろなことに興味を持たせて、最後に残ったのがピアノだったのです。
子どもが何が好きなのか、その素直な気持ちを優先させることに時間をかけたというのです。
「盲目ではピアノなんて無理だ」と何人からも言われたそうです。
しかし、いつ子さんは常識や先入観をすべて取り払って、子どもの可能性を信じきります。
子どもの「好き」に対して、親は完全な支援者であっていいと言い切るのです。
そして、褒めることを以って、伸行さんの才能を開花させていくのです。
「伸りん、頑張った。すてきな演奏だった。もっと聞かせて。もっと上手になって」と。
あるコンクールで参加者のお母さんが「どうして間違えたのか」等々、こどもを厳しく叱っていたそうです。
そのやり取りを聞いていた伸行さんはこう言ったそうです。
「僕がお母さんにああ言われたら、ピアノを嫌いになっていたかもしれないね」。
今ではお母さんの付き添いがなくても、一人で海外に行き活躍を続ける、世界的ピアニストとなった伸行さんなのです。